昨シーズンSalomonからShiftが発売され、昨日MarkerからDuke PTが発表されました。
Techシステムが市民権を得たことで大手メーカーが開発に参入し、みんなが求めていた「登りやすく、かつ滑りもアルペンビンディングと同じ性能を」というニーズに応えようとしています。
以前は登り重視派(Dynafit TLTなど)と、滑り重視派(アルパイントラッカーやMarker Dukeなど)の両極端なものしかなかったですが、ここ最近はMarker Kingpin やFritschi Tectonなど、いいとこ取りな物も増えてきていました。
しかし、「滑りを求めるならアルペンビンディング」というニーズも、もちろんわるわけで。
近年アルペンビンディングの基本構造は長い間、ほとんど変わっていません。現在のアルペンビンディングの構造はほぼ完成形なのでしょう。
やはり滑走性を追い求めていくと最終的にはアルペンビンディングへ行き着くのでしょう。
それまでの滑り至上主義者の選択といえば、アルパイントラッカーが主流でした。しかしアルパイントラッカーは登坂性能が低いです。
更に本体が重く、滑る時にザックに入れて滑らなければならないので、背中の重量が増えてしまいます。
滑る時のザックの重量は重要です。
重ければそれだけ振り回されやすくなって滑りにくくなります。
登る時は足元はできるだけ軽くし、滑る時は背中をできるだけ軽くするのが理想です。
現在は大手アルペンメーカーが本気でTechビンディングを開発していますが、少し前までは誰も大手アルペンメーカーがTechビンディングを開発するとは思ってもいませんでした。
そんな時に、無い物は自分たちで作るしかないと、大手が参入する前から、アルペンビンディング+Techビンディングの融合を模索していたガレージメーカーがあります。
それが「Cast」です。
数年前(2012年頃?)にVer1が作られ、2017年に現在のFreetourが発売され、2018年にアップデートされたFreetour Ver2が発売されました。
Ver1はプレートの上にTLTのトゥーピースとアルペンビンディングを取り付けて、それを交換する物でした。
プレートの上にTLTとアルペンビンディングをポン付けし、ブレートごと交換することで登りと滑りのモードをチェンジします。
さらにこの当時はブーツもTeck系ブーツは登山向けのものしかなかったため、アルペンブーツにTechのピンをつける改造サービスも行なっていたようです。
最近は滑り用のTechブーツが増えてきたのでそのサービスも不要になりましたが、「無い物は自分たちで作ってしまえ」精神は本当にすごいと思います。
Freetourからは一気にグレードUPし、登る為のTLTトゥーパーツとアルペンビンディングのトゥー側の土台部分を完全に自社設計しモード切り替えができるようになりました。
これは本当によくできた設計で、専用設計されているわけでないPivotをここまでハイブリッドビンディングに昇華させたのはすごいと思います。
私も実際にFreeTourのVer1から使っています。
Ver1は多少荒削りなガレージメーカー感がありましたが、翌年にアップデートされたVer2は問題点がかなり改善され、完成度が上がっています。
FreeTourの特徴といえば、何と言ってもこの4本のビスで固定する構造です。
Pivotのトゥーピースは土台を専用品に交換します。
穴の大きい側にビスを通し、押し込む事でロックされます。
外れないようにロック機構も備わっています。上の写真の中央の少し左に膨らんだ部分があります。そこにはめてロックされます。
登るためのTLTパーツをはめ込むとこのような形になります。
TLTパーツ自体の使い方は一般的な物とまったく一緒です。
クランポンを取り付けるための通し穴もちゃんと付いています。
(真ん中のクランポンロックはCAST製品ではありません)
TLTパーツはFreetour Ver2になってより改善されました。ビスとのクリアランスに余裕ができる構造になったので装着が楽になりました。
Ver1はかなりシビアな取り付けで気を使いました。
ブレーキのロック機構もVer2で改善されています。
Ver1はすべて手動でしたが、Ver2ではブレーキ部分をつまんで両側から内側に狭めるように動かすとロックが解錠されます。
Ver1では外すのが渋く、外れる時の衝撃が結構あり手が痛かったので大変でした。
ヒールリフトは2段階あります。足元での操作になるので若干起こしたり下げたりがやりにくいですが、慣れれば問題ありません。
AFD(白いパーツ部分)を交換することにより、アルペン、GripWalk、WTR規格のブーツが使えます。現在ツアーブーツ規格のISO9523用は発売されていません。そこは注意が必要です。
もともとLookのビンディングはWTR派な事もあって、発売当初はアルペンとWTRのみでしたが、そこはさすがCAST。翌年からGripWalk対応してきました。
私はGripwalkブーツを使っているのでこの対応は本当にありがたいです。厳冬期はまだいいですが、やはり春シーズンは雪のないところや岩場を歩く事も多くなるので歩きやすいソールが使えるのはとてもありがたいです。
滑走モードはこのようになります。真ん中のパーツはブーツの下に収まるので干渉しません。
滑る時は完全にPivotです。
これでもう自分の滑りがしょぼくてもビンディングのせいにはできなくなります。w
重量はハイクモードの場合は約1kg。軽量な部類ではないですが、セパレートタイプでない旧Duke系やアルパイントラッカー系と比較すれば軽量な部類です。
Shiftや新DukePTと比較してもそれほど悪い数値ではないと思います。
注意点
このビンディングのメリットは、何と言っても滑走性能です。
しかし、その最高の滑走性能を得るためには、いくつかの注意点があります。
- 対応ビンディングはPivot18のみ
Ver1はMarkerやSalomonビンディングでも使えましたが、FreetourはLookのPivot 18用に専用設計されています。より軽量なPivot14は土台部分の構造が異なるので残念ながら取り付け不可能です。 - 登る時のザック重量が増える
登る時はこのパーツをザックに忍ばせる必要があります。
Pivotのトゥーピースは金属製なので強度は抜群ですが、その分重いです。
片方で540gほど。ペアで約1100gほど登る時のザック重量が増加します。
滑る時はTLTパーツをザックに入れて滑ります。
こちらは1つ130gで合わせて260gなのでそれほど気にならないでしょう。 - ウォークモードの時のブレーキの収まりが悪い
これはウォークモードに限らずPivotそのものの構造ですが、収まり悪いです。
最近の他社メーカーのビンディングは収まりが良い工夫がされているので余計に気になります。
板とブレーキサイズの相性もありますが、気をつけないと歩く時に引っかかったりします。
- ウォークモードは完全にフラットにはならない
ウォークモードのヒールリフトをあげない状態でも、若干角度が付きます。これはブレーキを抑えているパーツの厚み分浮いてしまうのでしょうがないですが、平地歩行でも若干ヒールが上がるので歩きにくいです。(爪がブーツにぶつかる形になるので爪を痛めやすい)
平地歩行が多いコースなどでは注意が必要です。
- 耐久性が不安
FreetourVer1ではヒールリフトの部品が壊れたり、AFDパーツが取れてしまう不具合が発生していました(こちら参照)
Ver2になって改善されてはいると思いますが、絶対値はまだ未知数です。私はインビス化をしているので、ヒールリフトパーツは1つ予備を持って行っています。 - Pivot自体が重いので、滑走時も重くなる。
これは他のフリースキー用のビンディング と比較しての話しです。片方で約300-400gくらい重いです。
特に飛ぶ時などは重さを感じます。
ただ最近はパーク系でもPivotを使っている人が多いので慣れの問題だとは思います。
滑る時はある程度重い方が安定感は出るのでデメリットだけというわけでもないと思います。 - ビンディングが外しにくい。
これはPivotの元々の特徴ですね。
構造上、外れようとした時に戻る力が働くので仕方ないですね。
また、ストックを使ってもなかなか外しにくいヒール形状ですし、手で外そうとすても、しゃがまないといけないので、バランスを崩しやすいです。足場の悪い箇所なんかはちょっと気を使いますね。
購入方法について
購入方法は2通りあります。
1.自分で直接個人輸入
アメリカの本国サイトから直接購入可能です。
特に難しい英語のやりとりも不要なので問題ないと思います。
ただ初期不良などがあった場合は少し面倒かもしれません。
そこに不安がある方は2の方法をお勧めします。
2.スキーバム商会で購入する
もはや代理店といってしまっていいのではないでしょうか。
日本でCASTを一番愛している方がやっているショップです。
白馬に店舗があります。
アフターケアもばっちりしてくれます(不具合あった場合は対応してくれます。なんと自腹で無償交換にも対応してくれます)
取り付けも行ってくれるので取り付けに不安のある方にもお勧めです。
オンラインでも購入可能です。
最後に
CASTは万人向けではありません。
自分のスタイルと目指す方向性によって選択肢に入るかどうかが決まると思います。
滑走時の滑走性と安心感はこれ以上ないものです。
少しでもそこに共感できる方はぜひ検討してみてください。